2020/09/07 13:53


(写真:繁延あづささん)
 

 まだ研修生だったころ、研修先のおばあちゃんが知り合いから種を探してくださり、分けてくれたのがこのオクラでした。今主流の五角オクラと異なり、角がたくさんあるオクラでした。これは出荷することなく、自家用に細々と作っていたものでした。それもそのはず、収量は少なく、形も不揃いです。
 
 オクラは主茎が真っ直ぐ空に向かって伸び、茎にそのまま葉柄が付いたような形で葉が展開します。その葉柄の付け根の部分を節と呼んでいますが、この節に蕾が付き、花が咲き、実がなります。改良の進んだ品種では、この節と節の間(節間)が短く、また各節々に確実に着果していきます。
しかし、昔の品種では、節間が長いため、背丈の伸びが早く、節の数もそもそも少なく、さらに節を1~3つは飛ばして着果します。そのため、オクラ1株から収穫できる本数は、とても少ないのです。

 しかし、もう一つ大きな特徴があります。葉の大きさです。新しい品種に比べ、1回りも2回りも大きく、大きな葉っぱで少ない本数の実をならせるのですから、1本1本の力強さも違うわけです。それが、八角オクラの美味しさの秘密というわけですね。

 普通、節が飛ぶというのは、農家にとっては不利なことですが、節が飛んだほうが美味しい。僕はそう思っています。

 自家採種をするとき、なるべく節が飛ばないもの(節成りのもの)を選ぶことで、多少は収量を上げることも可能かもしれませんが、このオクラの良さが失われてしまう気がして、あまり厳しく選抜はしないようにしています。

 そんな八角オクラですが、品種名としては「クレムソン・スパインレス」という名があります。作り始めた当初は、名を知らず、八角のものが多かったので八角オクラと勝手に呼び始めたのがきっかけで、今でも愛称のようにそう呼んでいます。

 僕が人生で初めて作った野菜がこのオクラでした。最初は芽が出るか、花が咲くのか、実がなるのか、何もわからず、見よう見まねでした。ある日、一日の研修が終わってから、自宅近くに借りた小さな畑で作っていた八角オクラの草取りをしました。すると、翌朝に初めての花が咲いたのでした。その感動は忘れません。そんなわけはないけれど、自分が草取りをしたから花が咲いてくれたんだ、そんな気がして、社長にその話をすると、「それはたまたま花が咲くタイミングだったんだろう」と言われました。その通り。当たり前だけど、それでも、何かが通じたような気がして嬉しかったものです。
 
 あれから5年経ち、八角オクラの中でもいろんな系統があるのが見えてきました。これから自家採種を続け、どのようにへんかしていくのか楽しみでなりません。